冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
俺の自室の前まで手を離せずに連れて来てしまう。
このまま部屋に連れ込み抱いてしまえばいいと黒い心が俺を誘う。

唇を噛み締め、葛藤し無理矢理手を離して
顔も見る事も出来ず、
「おやすみ…。」
と、呟き部屋に入る。

「おやすみなさいませ。」
襖の向こうで香世が頭を下げている気配がする。

「前田が、プディングという物を買って来たから…明日食べよう。」
襖越しにそう伝える。

それが今は精一杯だった。

「楽しみにしています。」
香世の嬉しそうな声にホッと安堵する。

傷付けたくはない。
幸せになって欲しいと願うのに、
それが俺の役目では無いと思うと心が痛い。
< 110 / 279 >

この作品をシェア

pagetop