冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
夕方まで今日も変わらず通常勤務に追われる。
片付けても片付けても
一向に減らない書類の山と格闘しながら、

フッと一息着く度に
ふと思い出すのは香世の事。

今夜はどら焼きが食べたいと所望した。

出来れば自分の足で血眼になって、
1番美味しいどら焼きを街中探し求めたいと思うほど、彼女の為に何かしたい。

それほど迄に思う相手はこの先も現れる筈がない。

彼女を手離す決意はしたが…
いざそうなった時、
俺はちゃんと香世を見送れるのだろうかと、
自問自答する。


トントントン

時間通り真壁が定時で迎えに来る。

俺は立ち上がり、クロックコートを羽織り
山折り帽を深く被り極秘任務に向かう。

今夜の相引きの場所はひっそり佇む首相の別邸だ。妾の為の住まいだともいう。

本来、街中の料亭だったのだが
首相の妾が朝から産気づき、
とても動かせる状態では無いと言う。

いつもなら真壁が事前に周囲を探り、
全てについて抜かり無いよう確認してから行動するのだが…
緊急事態だ致し方ない。
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