冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
その頃…

軍本部で待機していた前田に一報が入ったのは夜7時過ぎ、

『首相別邸にて 事件発生!
1人怪我人がいる模様、
急ぎ救急車両の要請有り。』

食べていたどら焼きを取り落とし
慌てて車に乗り込み香世が待つ家へ走らせる。

前田は咄嗟にボスに何かあったと察する。

軍部で怪我人を待つより先に
気づけば香世の元へと車を走らせていた。

彼女に知らせなければ…

怪我人が誰かは分からないが正臣である可能性もある。
手遅れになってはいけないとハンドルを握る手が汗ばむ。

あの2人は側から見ても、
お互い想い合っているのは明らかなのに、

まるでボタンを掛け違えている様にもどかしく、立ち止まったまま…

このままではいけないと、
前田は今朝、家臣としては禁断なのだが
ボスである正臣に意見を述べた。

手打ちにされても仕方がないと覚悟の上だったのに、
正臣は罵倒する事無く素直に受け入れ、
礼まで述べた。

その懐の深さに前田は脱帽し感動すら覚えた。

この人こそ上に立つべき人なのだと再確信し、やはり自分の目に狂いは無かったと誇らしくも思った。

一生ついて行きたいと気持ちも新たに仕事に邁進した。

その正臣の身に何か起きたのだ。

咄嗟に浮かんだのは香世の事。

正臣が初めて自分の意思で求め、探したいと切望した。

なんとかしたいと前田自身も躍起になって探し回った。

見つかった時の嬉しそうな顔は忘れない。

普段、感情を表に出す様な人では無い。

ボスの為に今、自分が出来ること。
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