冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
ドンドンドン。

「香世ちゃん!
運転手の前田です。開けてください!」
ガラガラっと扉が開いた途端、玄関に駆け込み前田は告げる。

「ボスに何かあったようだ。
負傷者が1人いると言う連絡が。
ボスかもしれない、急いで準備して軍病院に行きましょう。」

香世は慌てふためき、
それでも正臣の着替えを一式、風呂敷きで包み、
「お願いします。」
と頭を下げる。

香世を車に乗せてひたすら今来た道を戻る。

どうかご無事で…

2人の思いを乗せ暗い夜道を車は急ぐ。

軍病院に到着して、香世を誘導しながら前田は走る。

パタパタと香世が着物で小走りに走りながら懸命について来る。
目には涙を溜め唇を噛み締め、
今にも泣き出しそうだ。

香世が抱きしめていた着替えの風呂敷を前田が預かり、先を急ぐ。

角を曲がると、
救急外来の廊下で1人佇む人の影が…

少ない電灯に照らされて浮かぶ。

腕を組み無駄に長い足を投げ、壁際にもたれて俯きがちに立っている。

前田はハッとしてホッとする。

嗚呼良かった…

走る足を緩め安堵する。

その横を香世は走り抜け、
「正臣様…!」
と、呼びかける。

振り向く男は怪訝な顔をしながらこちらを見る。

「香世…?」

組んでいた腕を解いて佇み、
走り寄る彼女を両手で受け止める。

その姿を見みて後ろから歩み寄りながら前田は、そこは抱き止めてあげて下さいよ…
と不満顔だ。
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