冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
朝、香世はあまり寝れなかったわりには
スッキリ目が覚める。

昨夜の事を思い出すたび恥ずかしさが押し寄せてきて思わず赤面してしまうほどだ。

だけどともすれば、夢だったんじゃ無いかと思うくらい現実味がない。

まだ、外は薄暗く手元さえも見えない暗さだった。

休日も変わらず正臣は6時半に起床する。

あまり朝早くバタバタして起こしてもいけないと、借りた古典文学の本を行灯の明かりを頼りに読んで時間を潰す。

そうしていると、
段々と空が朝に向かって明るくなっていくのを感じ、
そろそろ着替えようとお布団から這い出る。

空気はキンと冷えていて心も体も一気に目が覚める。

着物に着替え、階段をそっと降り台所に向かう。

「おはようございます。」

女中が2人台所で朝ご飯の支度を始めていたので挨拶を交わす。

初日は敵視されていたけれど、
正臣が注意してくれた日からちょっとずつ
態度は軟化しているように感じる。

正臣からの手土産のどら焼きを2人にもお裾分けすると、
「ありがとうございます。」
と、笑顔で受け取ってくれた。

台所は2人に任せて香世は掃除をしようと玄関に向かう。
以前、女中のような事はしなくて良いと言われたから、咎められるだろうか…

ちょっと立ち止まり悩む。

でも気になる…

門の側には梅の花が散り始めていて、
石畳みに花びらが散りばめられている。

今は綺麗だけど、きっと車に踏まれてしまうと掃き難くなってしまう。

しばらく悩むが、
意を決して箒と塵取りを持って門を開け、
入口付近の花びらを掃く。
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