冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「何か、欲しいものがあったら言ってくれ。
何でも良いから遠慮するな。」
と、正臣が香世の心を見透かしそう言う。

露店には飴細工に焼き鳥屋、うどん屋なども
並び芳しい香りがただよってくる。

小さな子供達は紙風船や竹とんぼをねだり
お店には人々が立ち並んでいる。

そんな光景を目にすると、香世の気分も上がり楽しい気持ちになる。

片手に風呂敷に包んだお重箱を持ち、
正臣に手を引かれながら人混みを頼りに参道に入る。

満開の桜が参道を囲むように咲き誇り
風がふわりと吹くたびに桜吹雪が舞い散る。

「綺麗…。」

香世は思わず口にする。

「凄いな。」
正臣も顔には出ないが感動を覚えて思わず足を止める。

今まで、花を見る為に家族と来た覚えも無かったし、ましてや誰かを連れて来るなんて事を考えた事も無かった。

何故だか真壁が香世の事を心配し、
どこかに連れて行ってあげるべきだとしつこく言ってきた為、
どこが良いのか前田に聞いたところ、
今の時期は花見が1番だと言うから今回来る事にしたのだが。

香世の嬉しそうな顔を見て連れて来て良かったと心から思った。

「あれはなんでしょうか?」

香世が指差した方を見ると、
そこには人だかりが出来ていて人一倍盛り上がりを見せていた。

「行ってみるか。荷物貸せ。」
ぶっきらぼうにそう言って、正臣がお重箱を持ってくれる。

「ありがとうございます。」

正臣は香世の手を引き人混みを掻き分ける。

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