冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
香世は突然の出来事に呆気にとられながら、
真壁の骨ばった男らしい手を見つめる。
「御足労をおかけしますが、
しばしこちらでご一緒にお待ち頂きたく思います。」
真壁は再度香世に手を差し伸べる。
香世は戸惑ながら真壁の手のひらに自分の手をそっと重ねる。
真壁は香世の手をぎゅっと握り人力車から下ろす。
「軍人さん、勝手な事されたら困るよ。
この子は既に商品みたいなものなんだから。」
「法律で人身売買は禁止されているはずです。」
真壁はもう1人の軍人に香世を託すと、
仲買人に向かって睨みを利かす。
「人身売買では無く奉公ですよ。
あくまで俺達は働き場所を彼女に紹介してるだけなんだから。」
急に縮こまったように仲買人は慌て出す。
「軍は警察とは違いますが不正を正す為、
必要ならば逮捕権を発動する事ができますので、あまりお喋りにならない方が身の為です。」
脅すように真壁は仲買人を睨みつける。
仲買人は面倒な事になったと頭を掻きながら、大人しく藤屋へと女将を連れて来ると言い残し、門をくぐって行った。