冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
しばらく2人参道を歩きながら桜を楽しむ。

広く開かれた場所に出て、
ござを引いて桜の下で飲み食いしている
人達がいる。

正臣が一つの長椅子を指差し、
「あそこにしよう。」
こくんと頷き香世はついて行く。

桜の木がちょうど木陰になって程良く
溢れ日が差し込むそこに風呂敷を解き
重箱を広げる。

2段に分かれた重箱には、
1段目にお稲荷とおにぎりを入れ、
2段目にはだし巻き卵や菜葉のお浸し、
ぶりの照り焼きに根菜の煮物など
彩りどりに並べられてとても美味しそうだった。

「凄いな。あの短時間でこの種類を作ったのか。」
正臣がしきりに感心する。

割り箸を渡し、取り皿代わりの蓋に幾つか乗せる。

「いただきます。」
と、普段通りに手を合わせ正臣は箸をつける。
だし巻き卵を1番に選び、ぱくり口に運ぶ。

「美味いな。」

「良かったです。」
心配で正臣を見つめていた香世はホッと胸を撫でる。

「香世も食べろ。」
正臣が香世に食べるように促す。

「いただきます。」
遠慮がちにお稲荷さんに箸を運び、
ひと口小さくパクりと食べる。

時間が無くてバタバタしたが、
味はいつもの感じに出来て良かったと微笑む。
< 140 / 279 >

この作品をシェア

pagetop