冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「香世は料理は好きか?」

「はい。作るのは好きです。」

「もし、自分で食事を作りたいのなら
女中2人は本家に行って貰おうと思っている。
来週にはタマキも帰ってくる。
香世も気を使わずに好きに台所を使えた方が良いだろう?」

「お2人がそれで良いのなら…私は構いませんが。」

「そうか、分かった。」
正臣は納得したらしくまた食べ始める。

香世もちょっとずつ箸を進める。

爽やかな春の風が桜の木を揺らし、
あちらこちらでは笑い声が聞こえる。

穏やかで暖かな幸せな時間が流れている。
幸せに浸りながら香世はのんびりと桜を楽しむ。

「来週、香世の父上に会う予定だ。
その時に結婚の許しを貰うつもりだ。」

「えっ⁉︎」
突然現実に引き戻されて驚く。

昨日思いを打ち明けたばかりの香世にとって早い展開に少しの戸惑いを覚える。

「元々、会社の事もあって会う予定ではあったんだ。香世を預かっている事も伝えなければと思っていたから良い機会だ。
香世も一緒に行くか?」

「私も…ですか?」
父に会いたいかと言えば、会うのが少し怖い。
ただ、弟や姉がどうしているのかは知りたいとは思う。

「自宅に行くのですか?」

「いや、小料理屋で一席設けている。」

父はどう思うのだろう…

花街に売った娘が突然婚約をしたいと現れるのは…。
私は父にとってただの駒でしか無いのは
とっくに分かっている。
今更会ったところで傍迷惑でしか無いのではないだろうか…。
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