冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
繁華街を通り過ぎたひっそりとした街角に
その料亭はひっそりと建っていた。

香世は少しばかり緊張で指先が冷たくなるのを感じる。

父とは花街に売られる日の朝に会ったきりだ。
何を言われるのか想像もつかない…

ただ、心臓だけがドキドキと脈を打つ。

「香世、降りるぞ。」
正臣に手を引かれ、頷いて香世は車から出る。

一礼して送り出してくれる前田に向かい、
お辞儀をして香世は正臣に着いて歩く。

「香世、心配するな。俺がいる。
絶対に守るから大丈夫だ。」

「…ありがとうございます。」
正臣の言葉を心強く思う。

長い廊下を歩き渡り廊下を渡ると離れがあった。

料亭の女将が一つの部屋の前で立ち止まり、
正座をして中に話しかける。

「二階堂中尉がお見えになられました。」

「ああ、入れ。」
父はたとえ没落したとしても生まれながらの
伯爵だ。威厳と誇りは失っていない。

子供の頃はまるで鬼のようで、
少しでも気に食わない事が平手打ちが飛んできた。
刃向かう事など出来ないと思うほど支配されていた。

少し顔色が青ざめた香世を気遣い、
正臣は手の甲で香世の頬をサラッと撫ぜる。

2人目が合う。

正臣は柔らかな笑顔で香世に微笑む。
そして、部屋に足を踏み入れる。
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