冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「あの…。」

事の状況がよく掴めない香世だが、
何故か見知らぬ軍人さんが花街から私を救い出してくれると言う。

香世は思い切って話し出す。

「あの、私…二階堂中尉様にお会いした事が無いと、思うのですが…
許嫁とは人違いなのでは無いでしょうか?」

軍人の真壁を恐れず、
真っ直ぐ澄んだ目で見上げる香世の凛とした佇まいに、真壁は好感を持つ。

さすがは中尉の許嫁だと納得もした。

真壁は香世に敬意を持って話し出す。

「中尉も貴女がそのように言うだろうと言われてました。
貴女はきっと誰も頼らず、
自分の立たされた境遇さえも素直に受け入れてしまうのではと、危惧されていました。
でも、貴女に花街なんて似合わないと自分も思います。」

「ですが…これは私の父の指示なのです。
私は父に逆らう事など出来ません。
これが私の運命ならば受け入れるしか無いのです。」
香世は静かにそう伝える。

「助けは要らないと申されるのですか?」
真壁は信じられないと言う顔で香世を見下ろす。

「残された家族の為、私自身で決めた事ですから。」

香世の決心は硬い。
私が売られなければ実家にはお金が一切入らなくなる。

それでは困るのだ。

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