冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
香世は目に涙を溜めて、声を震わしながら話す。
「お父様…
この先どの様に生活を維持しようとお考えですか?
樋口家には、姉や龍一が居ます…
2人の事はどうするつもりなのですか?
正臣様は、家族の事も慮って下さっているのです。」

「わしに刃向かうのか。
今まで何不自由無く育っててやったと言うのに、親不孝もいいところだ。
わしは元から女子は要らなかった。」

「樋口様。
香世殿の父上だから救いたいと考えていましたが、非常に残念です。
貴方とは分かち合える気がしない。 
女子が全ての男を産んでいるのです。
尊み敬うべき存在であり、蔑むべきでは無い。」

正臣は鋭い目を向け父を静かに一喝する。

「香世、兄妹の事は案ずるな。
俺が弟も姉上も生活に困らぬ様に力になろう。帰るぞ。」

正臣は立ち上がり踵を返し、
泣き崩れそうな香世を支えながら部屋から出るよう促す。

「さようなら…お父様。」

香世は立ち上がり頭を下げて、正臣と共に廊下に出る。

「おい、待て…。」
襖を閉める瞬間、父の声が聞こえる。

香世は堪え切れず、
肩を震わせヒックヒックとなき始める。

正臣はすかさずハンカチを取り出し、
流れ出る涙を拭いてくれる。

「香世、そんなに泣くな。」
背中を撫ぜ優しく抱きしめる。

唯ならぬ気配を感じ女将が駆けつけて来る。
「どうなさいましたか?」

「悪いが女将、他の部屋を用意してくれ。
話し合いが決別した。
しかし彼女が落ち着くまで、別の部屋で食事をしたい。」

「承知しました、こちらにどうぞ。」

女将は快く新しい部屋を2人に提供してくれる。

「あらあら、お嬢様。
そんなに泣いてはせっかくの綺麗な振袖が
台無しですよ。
二階堂様も心配なさっておりますから、」

廊下を啜り泣きながら正臣に背中を支えられて香世は歩く。
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