冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
違う部屋に通され、2人きりになる。

「香世、申し訳なかった。
やはり連れて来るべきではなかった。」
正臣は香世を抱きしめ背中を優しく撫ぜる。

なかなか泣き止む事の出来ない香世は
左右に首を降り一生懸命に否定する。

しばらくそのまま抱きしめられていた。



「ま、正臣様…ありがとう、ございました。」

「何故、礼を言う?」
香世の濡れた頬を両手でそっと触れ
涙で真っ赤になった目を覗きこむ。

「父から、私を…守ってくれました。」

「守るも何も当然の事をしたまでだ。
出来れば敵対したくは無かったが…
さすがに感情を抑える事が出来なかった。
申し訳ない。」

「正臣様には感謝しか無いです。
父が大変失礼な事を言いました。」

「明日、香世の兄妹に会いに行けば良い。
弟が心配なのだろう?」

「…良いの、ですか?」
驚いた顔で正臣を見上げる。

「俺は別に…
香世が俺の元に帰って来てくれるのならば…自由に好きな所に行ってくれて構わない。
……今までは…その、俺が臆病だっただけだ。」
バツが悪そうな顔でそっぽを向く正臣を少し可愛いと思ってしまい、
ふっと笑顔になり気持ちが軽くなる。

「良かった。笑った……」

正臣は、香世の頬の涙の跡を消す様に優しく撫ぜ、微笑みを浮かべる。

「そうだな。
明日、早く帰るから一緒に行こう。」

「お仕事の方は大丈夫なのですか?」

「俺も香世の兄妹に会ってみたい。」

なんで優しい人なのだろう…
香世は思う。

どんな時でも寄り添い導いてくれる正臣の優しさに触れ、また涙が溢れてくる。

「もう泣かなくて良い。
せっかくだから美味しい物でも食べて帰るぞ。」

2人向かい合い、机一杯に運ばれて来た
懐石料理に箸を落とす。

美味しい料理を目の前にして、
いつしか香世の涙も止まり笑顔で箸を進める。
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