冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

実家に帰る

正臣の運転で実家に向かう。

気付けば実家を出てから1か月経っていた。

香世は、随分帰ってないと思うほど懐かしいさを感じてしまう。

30分ほどで実家に到着する。

車の中から、かつて自分が住んでいた家を見上げる。

「お父上はいない時間帯を選んでいるから
安心しろ。」
正臣は香世にそう告げ優しい笑顔を向ける。

「わざわざ気遣って頂きありがとうございます。
…実家なのに、もはや他人の家のような錯覚がして、少し躊躇してしまいました。」
胸の中の思いを素直に打ち明ける。

「そうか。
香世の居場所は既に俺の隣だ。
それで良いのでは無いか。」
頭を優しく撫ぜられ、目を合わせ2人微笑む。

正臣が先に外に出て、
香世の座る助手席のドアを開けてくれる。

「ありがとうございます。」

久しぶりに実家の土を踏む。

正臣は片手に手土産を持ち、
もう一方の手で香世の背中をそっと支える。

「行くぞ。」

少し緊張した面持ちで香世は玄関続く石畳を歩く。

洋館風の香世の実家はかつて公爵家だっただけに、洋風庭園に綺麗な花々が植えられていたが、今となっては手入れをする庭師もおらず寂れていた。

「母が元気な頃はこのお庭に花が咲き誇っていて、今の季節はチューリップが綺麗だったんですけど…。」

今は何も無い花壇を見つめ香世が昔を懐かしむ。

「では、手始めに花壇から始めるか。」

「えっ?どう言う事ですか?」
目を見開き正臣を見る。

「香世の実家を再生する。」
香世に笑いかける。

「正臣様にそこまでしてもらう訳にはいけません。」
香世は慌てて正臣を止める。

「俺の婚約様の実家だ。
見栄え良くして何が悪い。
結納を断られたし、替わりに好きにさせてもらう。」

「待って下さい、正臣様。
そんな事したら散財してしまいます。」

「ハハッ。そんな甲斐性無しでは無い。
心配しなくとも香世を養っていく富ならある。」
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