冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「お待たせしました。
お手土産の生菓子とても美味しそうですよ。」
マサが沈んだ空気を取り除くように
お皿をそれぞれに置いていく。

「わぁー。凄いや!本当に桜の花びらみたい!!」
初めて生菓子を見た龍一のはしゃぐ声も手伝って、その後は終始和やかに穏やかな時間を過ごす事が出来た。

帰り際、姉も龍一も笑顔で手を振り
「また来てね。」
と、送り出してくれた。

正臣と香世は行きと同じように肩を並べ
石畳を車まで歩く。

「香世、俺の気持ちを押し付けて強引に
婚約に取り付けたが、
これで良かったのかどうか正直迷っていた。
この先、自分自身の命さえ不確かな軍人だ。
もしもの時は独りぼっちにさせてしまう。」

正臣は、心の淵に秘めた思いを口にする。

「正臣様、軍人じゃなくたって先の事は分かりません。
病気になるかもしれないし、
いつ事故に合うかも誰にも分からないじゃないですか。
もしかしたら、私だって正臣様より先に死ぬ事だってあるんです。
先の事を考えて、今を諦めるのは嫌です。
私は大丈夫です。
だからもう気にしないで下さい。」

真っ直ぐこちらを見てはっきりと話す香世が
凛々しく美しいと、思わず正臣は見惚れる。

少しの間、正臣は香世の言葉を噛み締め歩く。

「香世のその凛としたところが堪らなく好きだ。」
正臣は振り向き、
香世に向かって爽やかな笑顔を見せる。

香世は突然の告白に驚き、
ドキンと心臓が脈を打ち顔から火が出そうなほど恥ずかしくなる。

「こ、こんな所で…
と、突然そんな事言わないで下さい…。」
真っ赤な顔を両手で隠し香世は俯く。

「茹で蛸みたいだな。」
ハハッと笑って香世の頬をサラッと撫ぜていく。

そんな2人を乗せて車は帰路に着く。
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