冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
主犯格の男とこの銀行の支店長との交渉が
始まり、30分ほどが過ぎた頃だろうか…

人質として捕らえられた人々は50人以上、
その中には銀行に訪れていた客が香世を含め
18人ほど小さな子供は2人、お年寄りは3人。
女性客は見た感じ5人ほど…。

銀行員は全員で35人、
その中で女性は4人だと近くにいた銀行員から聞き出す。

香世は縛られ身動きが取りづら無い中、
どうにかならないものかと懸命に状況を把握する。
 
そんな中、

パンッ!!

と乾いた銃声が一発鳴り響く。

キャー
と近くにいた若い銀行員が小さく叫び、
身を震わし、人質達は騒然として不安に駆られる。

誰かが撃たれたのでは?
支店長が?
交渉決裂したのか?
我々はどうなるのか…?

人質の中から憶測が飛び交い不安に拍車がかかる。

支店長さん…
さっき香世が個室に通された際、
にこやかに部屋まで誘導してくれた人だ。

父には大変お世話になったと、
お力になれなくて申し訳無かったと…
頭を下げてくれた人だ。

決して悪い人では無い。
それが仕事だと言うだけで、どうして彼が撃たれなければならないのか……?

香世は下唇を噛み、どうしようも出来ない現実に打ちひしがれる。

「静かにしろ!!」
覆面の男の1人が叫び、
人質達は一瞬でシーンと静まり返る。

しばらくすると、
支店長が乱暴に引っ立てられて戻って来て、
人質の輪の中に放り込まれる。

よく見ると足から出血しポタポタと血が流れてている。

止血しなくては…
それを見た従業員の1人が慌てて申し出て、
止血をする事が許される。

どうやら弾は太腿を貫通ているらしく、
太腿の付け根を手ぬぐいでぎゅっと結び止血をするぐらいしか出来なかった。

みるみる顔色が悪くなっていく支店長を
香世は見つめ、焦りの気持ちを深くする。

このままでは出血多量で死んでしまうかも知れない……

一刻の猶予も無いと気ばかり焦る。
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