冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
2人なんとか着替えて正門に向かう。

時間きっかりに自家用車で二階堂が現れ、
「乗れ。」
と手早く言って2人を乗せ花街に急ぐ。

「じ、自分、自動車に乗ったのは初めてです。」
後ろの席で、若干子供のようにはしゃぐ酒井を、真壁は冷めた目で見つめ、

「良かったな。」
と、心無く言う。

「自動車如きで騒ぐな。」
どこまでも冷静で笑わない男、
二階堂は冷めた声で車内を凍らせる。

二階堂は苛立っていた。

会議が終われば朗報が聞けるのかと心無しか浮き足だっていた。

この3年間、密かに香世を探していたのだ。

分かっていたのは香世と言う名である事。

意志の強そうな大きな目と白い肌。

どこかの令嬢だと言う事。

任務の合間に少しずつ手がかりを伝手に探した。
そして、ついに先週やっと辿り着いたのだ。

樋口香世18歳、姉が1人、父が事業に失敗し没落の一途を辿った元貴族。
母は三年前に他界。

彼女が花街に売られると知ったのは今日の午後だった……
急ぎ部下に命じて彼女を連れ戻すように言ったのにこの失態だ。

運転しながら二階堂は、
はぁーっと深いため息を一つ吐く。

何が何でも彼女を花街から救い出さなければならない。

彼女が不特定多数の男達の慰み者になるなんて事は、あってはならないのだ。

そう二階堂は思うと下唇を噛み、
言い知れぬ苛立ちと、焦る気持ちを無理矢理押さえ込む。
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