冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

「いかにも、香世は大切な人であり私の全てです。
けれど今は彼女の側にいても何も出来ない…。
だから、きっと彼女が望むであろう事をしているまでです。」

「お前がなぜそこまで彼女にこだわるのか
分からないが…
恋にうつつを抜かすなと祖父に言われた事を忘れてないだろうな。」

何を言いたいんだ?

父の言葉は矛盾ばかりで全く持って脈略がない。
香世のところに行くべきだと言うのに、
恋にうつつを抜かすなと言う…。

「私は彼女に恋をしてる訳では無く、
愛しているんです。
彼女の為なら強くなれるし命だって捧げます。
彼女が目覚めるまで、自分は自分の成すべき事をするまでです。」

「今日は…止めておけ。
子供の頃からお前は妙に大人びていて、
何を考えているのか分からなかった。
私のせいでそうなったのだとは思うが…
まったく心の読めないイケすかない子供だったな。
そのお前が今日は…分かりやすく落ちているように見えた。
これ以上働いても無意味だ。
彼女が目覚めるまで彼女の側にいろ。」

「昨日の引渡し書を作成しているところです。私のせいで仕事を滞らせる訳にはいけません。」
お互い一歩も引かず埒があかない。

「これは上司命令だ。
直ちに仕事を止め、病院へ行け。」

父がそう正臣に命令する。

少しの間の後、

「分かりました…残りは真壁に回します。」
正臣はおもむろに席を立ち上がり、
帰り支度を始める。

父に心配されるほどそんなにも俺は弱って見えるのだろうか…

「彼女の容態が落ち着いたら私にも一報くれ。」

そう言い残して、父は去って行く。
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