冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
香世が意識不明になって2日目。

正臣は全ての時間を香世の為に使い、
出来るだけ側に居たいと時間の許す限り
病院に居続けた。

軽く病室で朝食を取った後、
すでに日課になっていた香世の手や足のマッサージをする。
栄養剤の点滴だけで生きていると言っても過言ではない香世は、目に見えて痩せていっている。

その細い腕を見る度に心が痛む。
早く目覚めてくれ。
そう祈りながらマッサージをする。

その時、ピクッと指が動いた気がして、
ハッと正臣は目を凝らす。

「香世?」

顔を覗き頬に触れ呼びかけると、瞼が少し震えた気がする。

「香世、頼む、目を覚ませ。」
祈る様な気持ちで声をかけ続ける。

今にも動き出しそうな唇を見つめ、
衝動的に口付けをしてしまう。

すると、
ビクッとした香世が重たい瞼を懸命に開き、眩しそうに目を開け始めた。

「香世!香世!」


ぼぉーっとした頭で香世は正臣を見つめている。

「香世、ここがどこか分かるか?」

そっと、問いかけてみる。

香世はちょっとだけ首を動かして辺りを見渡す。

「ここ…病院?」
か細い声で呟く。

「そうだ。…良かった。良かった…。」

正臣は抱きしめたいのを我慢して、
香世の手をぎゅっと握りながら、
震える手で枕元にある呼び鈴で看護婦を呼ぶ。


「……あの…どちら様ですか?」

香世が不思議そうに正臣を見てそう言った…。
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