冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
正臣も戻って来てきて挨拶をする。

「こんにちは。ご家族お揃いですね。」
日頃から愛想がある方では無い正臣だが、
今日はやはり嬉しいのか若干の笑顔を見せている。

「お迎えのお車を手配して下さりありがとうございます。」
姉は正臣にお礼を言う。

正臣の計らいで、運転手の前田が香世の実家を訪れ、香世の家族を病院まで連れて来たのだった。

「いえ、きっとご家族で退院後の生活について聞いて頂いた方が良いと思いますし、
その方が香世殿も心強いと思うので。」

正臣はそう言って、小さな来客を見つけて膝を折る。

「久しぶりだな、龍一君。俺の事は覚えているか?」

正臣は大きな手を出して龍一の小さな手を握り握手をする。
香世はその姿を見て、なんだかとても可愛らしいと笑みをこぼす。

「覚えてるよ!僕に剣道を教えてくれるの忘れてないよね?」

目をキラキラさせて龍一がそう言うから、
正臣も笑顔を返し、そんな龍一の頭をポンポン撫でる。

「もちろん、忘れていない。」
そう言って立ち上がる。


「香世、忘れ物は無さそうか?
医者がこちらに来てくれるそうだから、
家族で今後の生活の事を聞いた方が良い。」

「二階堂様、ありがとうございます。
何から何までお世話になりました。」

香世が頭を下げる。

「入院費さえも二階堂様に払って頂き、
本当に心苦しいばかりです。」
姉も頭を下げてお礼を言う。

「いえ、婚約者として当たり前の事をしたまでです。」
二階堂は爽やかに笑う。
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