冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
車に荷物を載せて、龍一を後部座席に下ろす。
「前田、香世の弟の龍一君だ。
一緒に遊んでやってくれ。」

「了解っす。
龍一君、運転手の前田です、よろしく。
何して遊ぼうか?」

「チャンバラごっこしたい!
学校で男の子達がやってるんだ。
僕、出来なくて仲間に入れないから…。」
前田は近くの小枝を拾って2つに折り、

「良し、どっからでもかかって来い。」
と前田が龍一を誘い楽しそうに遊び出す。

コイツは子供の扱いが上手いからきっと直ぐに打ち解けられるな、と思う。

正臣は、龍一に小枝を刀に見立てて握り方を教える。

龍一は今まで父親以外の大人の男達と
ここまで触れ合った事は無かったので、
とても嬉しくて楽しくて気持ちも上がる。

しかも意外にも正臣が、
細かくしっかりと教えてくれるから、
龍一は自分が少し特別になった気がしてくる。

「あの、二階堂様。」
そこに、樋口家の女中マサが正臣を呼びにやって来る。

「お医者様がいらっしゃったので、
二階堂様もご一緒にと清子お嬢様から言付かって来ました。よろしいでしょうか?」

遠慮気味に声をかけられ正臣は龍一の頭を撫でて立ち上がる。

「自分は今の香世殿にとっては、
知らない人間に近い存在だと思うので、
席は外した方が良いかと考えております。」

丁重に断るべく言葉を選びながらマサに話す。

「香世様には二階堂様が必要です。
それは記憶を失っている今でもです。
どうか、お早めに病室にお戻り下さい。」

マサは深く頭を下げて二階堂にお願いする。

はたして今の香世にとって、自分が側にいて本当に良いのだろうかと迷いがある。
ただ、自分の思いを香世に押し付けているようで、香世にとってはありがた迷惑なのではと…。

「自分が今の香世殿にとって相応しいのか
どうか、彼女の側にこのまま居て良いのか
迷うところですが…。」
正臣はあえて自分の気持ちを露とする。
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