冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「香世様には正臣様が必要です。
それはお側で見ていれば分かります。
記憶が無くなったとしても変わりません。」
マサは力強い言葉を正臣に伝える。

「今も、二階堂様が戻らない事に不安を感じておりますので、早くお戻り下さい。
龍一坊っちゃまの事は私も見ておりますので。」
マサはチャンバラごっこを楽しんでいる龍一
に目を向け微笑む。

「一つ伺いたいのだが、
香世の父親の暴力はそれほど酷いものなのですか?」

龍一が教えてくれた事を二階堂は気にかけていた。

「それは…香世様が?」

「いや、龍一君が教えてくれました。」

マサは一瞬目を伏せ、そして語り出す。

「会社の経営が酷くなってから特に…
ご自宅で自暴自棄になるような事が多くなって、物に当たったり時に香世様に当たったりと酷くなっていきました。
お姉様にお手は出さないのですが…
やはり最近も、物を壊す行為は度々見られます。」

「そうですか…。」

ますます正臣はそんな実家に香世を帰すのは心配でならないと思う。

「分かりました。
とりあえず、病室に戻ります。」
正臣は踵を返してスタスタと歩き出す。

その頼もしい後ろ姿をマサは見守りながら、
どうか香世様をお守り下さいと手を合わさずにはいられなかった。
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