冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
1週間前に正臣から、名前で呼んで欲しいと言われ、戸惑いながらも今、香世は頑張っている最中だ。

「あの…ま、正臣様、お着替えの着物ですが…何かお好みはありますか?」

昨日からタマキに頼まれ、正臣の着替えの手伝いをするようになったのだが、これが香世にとってはとても恥ずかしくて仕方がない。

夕方帰って来た正臣はいつも着物に着替え寛ぐのだが、何色が好きでどの着物を愛用しているのか知りたくて、香世は思い切って聞いてみる。

軍服を脱ぎながら正臣は、
「そうだな。特にこれと言って考えた事も無かったが、香世はどう思う?
俺に似合う色はどれだ?」
思いがけず質問で返されドギマギする。

「えっ?私ですか⁉︎」
思わず正臣を見つめるが、正臣はにこりと笑って香世の答えを待っている。
しかもシャツのボタンを取り始めてしまうから慌ててしまう。

「えっと…一番上のボタン外させて貰いますね。」
急いで背伸びをしてボタンに手をかける。
正臣は少し膝を折り、香世がやり易いようにしてくれる。

「香世、質問の答えは?」
そう言われ、
「えっと…紺色の大島紬でしょうか…。」
遠慮気味に香世は答える。

「そうか。じゃあ、これからは紺色の着物を着る事にしよう。」
そう言ってシャツを羽織ったほぼ半裸の状態で、自ら箪笥を開き、

これか?こっちか?と香世に選ばせるように見せてくる。

「えっと、こっちでしょうか?」

香世が慌てて選んだ着物を正臣は嬉しそうに
引き出して、シャツを脱ぎ捨てズボンを脱いでしまうから、キャッと香世は後ろを向いて
しゃがみ込んでしまう。

「ああ……すまない配慮が足りなかったか。」
正臣が笑いながら長襦袢に着替えて、紺の着物を羽織る。

「香世、着替えを手伝ってくれるんじゃないのか?」
正臣にそう言われ、急いで帯を手にして真っ赤になりながら帯を締めていく。

今まで龍一の着替えを手伝っていたが、正臣相手では訳が違う。
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