冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
ドキドキもハラハラにも似た感情を持て余しながら、香世は必死で心を無にして正臣の帯を締める。
慌てたせいか畳の縁に足を取られ、
正臣に飛びつくよに転びそうになってしまう。
ワッと思った時には既に正臣の腕の中で、
「ご、ごめんなさい。」
と、慌てふためき離れようとするのだが、
抱きしめられた腕の力は一向に解かれず、
困って正臣を見上げる。
「これは不可抗力だからな。」
と正臣は笑いながら香世を抱きしめ続ける。
「あの…ま、正臣様…腕を緩めて…下さい。」
香世は必死でお願いする。
「残念だな。せっかく香世から抱きついて来てくれたのに。」
正臣は仕方が無いと言う感じでやっと腕を
解いてくれる。
真っ赤になった頰を撫ぜられビクッとする。
おまけに前髪を掻き分け額に口付けをされてしまう。
香世は驚きのあまり目を丸くして固まる。
「これでも出来るだけ触れないように我慢しているのだ、少しは許せ。」
と正臣は嬉しそうにそう言って、
頭をポンポンと撫ぜて部屋を出て行った。
何が起こったのか分からないと、
しばらく香世は動けずにいた。