冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「まずは、この度の銀行での事件、
怪我人も少なく早期解決が出来たのは
貴方のお陰だと聞いている。ありがとう。」

思いがけずお礼を言われて香世は驚き恐縮する。

「そして何より怪我の具合も心配したが、
無事に安静期間も乗り切り普通の生活に戻ったと聞いている。その後、頭痛や眩暈などは無いか?」
香世の体の事まで全てお見通しのようだ。

「はい。今は普通に生活させて頂いております。正臣様にはいろいろと良くして頂き感謝の言葉もございません。」

香世は正臣の父の真意が分からず、
ただ言われるままお礼を言葉にする。

「そこでだ。
そろそろ正臣の奉仕活動もここまでで良いのでは無いかと思われる。」

香世は唖然としながら、
「…奉仕、かつどう…?」
と繰り返す。

「あれは、あんな仏頂面して奉仕活動に余念が無くて、身寄りの無い子や居場所を失った人間にやたらと目を向け手を貸そうとする。
軍人たる者、上に立つ者としてその優しさは命取りにもなる。」

そこで正臣の父は言葉を切って、付き人のような男に合図をする。
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