冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

急接近

退院の手続きを終え、
外出着に着替えて正臣を待つ。

何気無く覗いた病室の窓を、
夕方から降り出した雨は勢いを増して叩きつけていた。

定時を過ぎて少し経つ。

なかなか来ない正臣を心配して、
香世はしばらく外を見つめていた。

トントントン

控えめなノックに返事をする。

「遅くなってすまない。
少し後処理に手間取ってしまった。」
入って来るなりそう言って香世の側に寄って来た正臣は、駐車場から走って来たのか
軍服の肩が濡れていた。

「お勤め、お疲れ様でした。
雨が酷いので心配していましたが、
上着が濡れてしまってます。」

香世は心配してハンカチを取り出し、
正臣の肩の雨露を拭く。

「ああ、大丈夫だ、ありがとう。
それよりも、父は来たか?何を言っていた?」
正臣様が来るように仕向けたんでしょう?
と香世は心で思いながら、
ふふっと笑う。

正臣が凄く心配そうな顔をしているから、

「お父様から謝罪を頂きました。
なんだか可哀想に思ってしまいました。
自分の意思では無いのに言わされた感じでしたよ。
それほどまでに正臣様を失いたく無いと思っていらっしゃる事が良く分かりました。」

「あの人は頭が硬いんだ。
こうでもしないと捻くれて、
2度と香世には会わないかもしれないからな。
話しは出来たようだな。
安心した。で、香世はどうして欲しい?」

今度は悪戯っ子の顔つきでこちらを見てくる。

「どうしてって……正臣様の人生ですから、
ご自分でお決めになるべきだと思いますよ?」
香世も困ってそう伝える。
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