冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
遠くでゴロゴロと響く雷鳴に、
涙目の香世が可哀想に思い、
つい部屋に来るかと誘ってしまった。

小さく頷く香世は、記憶を取り戻す前の15歳の純粋無垢な顔をして、
布団と枕を素早く持って廊下に戻って来る。

これははたして、
道徳的に良いのかと自分自身に自問自答しながら、布団が重いだろうと代わりに持って自室に向かう。

「どこに敷く?」
香世の好きにさせようと全てを委ねる。

ここに、と指を示す場所は俺の布団の隣で

大丈夫か⁉︎
と、もう一度自分に自問自答する…

外がピカッとまた雷鳴と共に光ると、
香世はびっくりして俺に張り付いて来る。

仕方なく布団を並べて敷いて、耳を抑えて疼くまる香世の手を取って布団に入るように誘う。

「段々と光と音の間隔が離れていっているから遠のいている証拠だ。
大丈夫だからもう寝た方が良い。」

と香世に布団をかけて安心させ、
行灯の火を薄暗く落とす。

「おやすみ。」
と冷静さを保ちながら隣の布団に入るが、
内心動揺を隠していた。

これは…何かの拷問か?

香世からの信頼は得られたのかもしれないが、触れたら途端に崩れ去ってしまう危うさを感じる。

「正臣…さん、手を握ってもいいですか?」

ゴロゴロと地響きのようになる雷鳴が怖いのか、香世がちょこんと顔を出して小さな声で聞いてくる。

そっと片手を差し出すと、
両手でギュッと握ってくる。

俺はこの可愛い生き物に何もせずに一晩過ごせるのだろうか…
試練と忍耐をひたすら心で唱えながら
眠りにつく。

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