冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「香世が会社に働きに出るようになったら
俺は嫉妬してしまうかもしれない。」

本気でどんな男の目にも触れてほしく無いと
思ってしまう。

香世は可愛い、それに愛嬌もある。
森下にさえ警戒しているのに、
あろう事か、会社の社員の8割は男だ。

仕事に行けば忽ち香世はチヤホヤされて
しまうだろう。
それだけじゃ無い。

もしも助平な奴がいたら触れたり、
抱きついたりしてくる輩もいるのでは無いか?

「正臣さんに許して頂ければ、
来月からお仕事に行こうかと思ってますが…。」

「嫌だな。
正直言ったら嫌だ。
男達の中には香世に好意を持つ奴だって出て来るかもしれない。」

つい布団の中だと本心を露としてしまう。

早く入籍して俺のものだって事を示さなければ…

「働く事を提案してくれたのは正臣さんなんですよね?」

思いもよらずに反対されて、
香世は驚きこちらを振り返る。

俺のせいで乱れた浴衣から、
白い谷間が見えてしまうから、
俺がハッとして襟裳に触れて合わせを整えてやる。

「あ、ありがとうございます…。」
ポッと赤くなった香世が俯く。

「あれだ、香世は意外と抜けてて隙だらけだ。嫌な事をする輩に対して抵抗できるのか心配だ。」

「会社は働きに行く場所でしょう?
そんな不真面目な人は即刻首にしてしまいましょうか?」
ふふっと香世が笑って、
悪戯を考える子供みたいな顔をする。

「そうだな。
役員の特権で風紀を乱す奴は即刻首だ。
松下にそう言っておく。
仕事始めには俺も付いて行って、俺の妻だと威嚇して回ろう。」
真面目な顔でそう言って香世を見る。

「本気ですか⁉︎」

「俺だって株主だ。社員に挨拶して何が悪い。」

「いえ…。
それはいささか…私に対して過保護ではありませんか?」

「香世は俺の大切な婚約者だ、いや妻だ。
過保護になって何が悪い。」

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