冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「なんだ?」
若干戸惑い気味の正臣の両手を子供達が手を引っ張って、居間に連れて行く。
「二階堂様、お誕生日おめでとうございます!!」
普段は殺風景な居間が、
子供達が折り紙で綺麗に飾ってくれて、
華やかになっていた。
正臣は驚いた様に部屋中を見渡す。
「…ありがとう。」
こう言う事に慣れていない正臣は
どう喜ぶべきか分からない。
そんな正臣を子供達は構わず座布団に連れて行こうとするから、
香世は慌てて止めて、
「正臣さんはきっと、
軍服を脱いでからの方が寛げるからお着替えを先に…。」
子供がはーい!と答えて2人で今度は衣装部屋に正臣を引っ張って連れて行く。
流されるままの正臣が可愛く感じて、
香世はふふっと笑う。
衣装部屋に入り子供達に解放された正臣が、
「これは…香世が仕込んだのか?」
と聞いてくる。
「子供達と一緒に考えたんです。」
ふふっと香世は笑い、
「あの…これは私からの誕生日プレゼントです。」
ドキドキしながら一枚の紺色の着流しを差し出す。
これは記憶を取り戻してから直ぐに、
正臣にまたお礼がしたいと思い立ち、
空いた時間に縫い続いていた着流しだった。
「これを…また、香世が縫ったのか?」
以前も一度お礼だと着流しを貰ったのだが、今度の着流しは夏生地で薄く、一段と難しかったのでは無いかと思う。
「このくらいしか取り柄が無いので、
お恥ずかしいのですが…。」
「いや、手先が器用な事は誇れる事だ。
ありがとう、大切に着る。」
ふわりと香世が嬉しそうに笑うから正臣はたまらず抱き締めたいのだが、先程から廊下でクスクスと笑う子供の笑い声が気になり、手さえも触れられ無い。
正臣は苦笑いしながら、
「…待ってるから早く行ってやるか。」
諦め顔で香世の頭を優しく触れるだけで我慢する。