冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
香世の葛藤をよそに正臣は重い大皿を片手に、香世が集めた小皿入りのお盆まで持って、ツカツカと廊下を歩いて行ってしまった。

台所の洗面に大皿を置いてたわしを持って洗い出す。
「あの、正臣さん、本当に私が…。」
たわしを奪おうと躍起になる。

背の高い正臣がたわしを持った手を、
香世の届かぬ高い場所まで挙げてしまうので、困り顔で手を伸ばす。

それを可笑しそうに正臣は笑い、
「香世だけに水仕事はさせられない。
せっかく綺麗になった手がまた荒れてしまったら大変だ。」

「それが私の仕事ですから…。」

「誰が決めた?
世の中は男女平等を囃し立てる。
俺も賛成派だ。
香世だってこれから会社で働くのだから、
家の事を香世だけに任せるのは間違っている。」

「でも…、正臣さんは中尉様で人の上に立つ方ですから。」
香世はそんな人に皿洗いなんてさせてはいけないと困ってしまう。

「中尉の前に香世の夫で、ただの男だ。
大切な妻を手伝って何が悪い。
香世は皿を拭いてくれ、早くやらないと終わらないぞ。」

そう言われて香世はおずおずと皿を布巾で拭き始める。

「香世は時折り頑固で困る。」
笑いながら正臣が言う。

「頑固なのは正臣さんです…。」
香世は口を尖らせ抗議する。

「楽しいな。」
ハハっと笑う正臣に呆れ気味に香世は苦笑いする。
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