冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
香世の着替えを手伝ってくれた真子は、
今年10歳になったばかりだと、つい先程聞いたばかりだった。

後、5年もすれば客を取らせると女将さんが言っていた。

こんな小さな子が何も知らずに、
ご飯が沢山食べれるよと親に言われて来たと言う。

これが世の中の現状なんだと香世は思い知った。

この世に不幸な子は沢山いる。

私はたまたま裕福な家に産まれて、
つい何年か前までは贅沢な世界に囲まれて、何不自由なく暮らしてきたのだ。

真子ちゃんのうちは百姓で兄妹が10人もいると言う。
上は15歳から下は1歳まで、
下の兄妹の為にも働いて稼がなきゃいけないんだと言っていた。

今は奉公だから余りお金は貰えないけど、
早く15歳になって部屋を持ったら、
いっぱい稼いで妹や弟にお腹いっぱい食べさせてあげるんだと教えてくれた。

親に売られて来た事さえ知らずに、
無邪気に香世の世話をしてくれた。

香世は心が痛んだ。

二階堂が子供を下がらせるよう配慮してくれた事に少しの優しさを感じた。

香世は真子に、『お部屋の引出しに飴があるから、食べていいよ。』とこっそり教えてあげた。

嬉しそうに彼女は部屋を出て行ったけれど…もしかしたら後で女将に咎められて折檻させられるかもと、香世の頭に不安が掠める。

真子も一緒にここから出してくれると言う、二階堂に香世は戸惑いながらも頭を下げた。

買われた場所が変わるだけ……。

香世はそう考え、おしろいを落とし、
来た時に着ていた着物に着替える。
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