冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
頃合いを見て居間に降りる。

香世と真子が行儀良く正座して、朝の挨拶をしてくる。
「おはようございます。」
2人揃って頭を下げてくる。

香世の側を通ると石鹸の香りが鼻を掠め、
人知れずドキリと動揺する。

「おはよう。2人とも髪がまだ半乾きだぞ。
急がないからちゃんと乾かせ、風邪をひく。」

「申し訳けございません。」

香世が急ぎ立ち上がり、真子を連れて部屋を出て行こうとする。

「他の部屋は冷えている。ここで構わないから髪を乾かせ、もっと火鉢の側に来い。」

そう言って、席を譲り2人が火鉢に近付きやすいようにする。

「ありがとう、ございます。」

お茶と新聞を持って現れたタマキに、
お願いして香世達の為に手拭いを持って来させる。

「香世様、おはようございます。
お風呂をご自分で沸かされたのですか?
気付きませんで申し訳けございません。」

「いえ、早い時間でしたし、
このぐらいは自分で出来ますから。」
香世がフワッと笑いながらタマキと話している。

俺は新聞を読みながら3人の様子をそっと伺う。
香世は令嬢であったにも関わらず、
手指が荒れているし、風呂の薪も自分で焚べたと言う。

一通りの家事は1人でこなせるのかも知れない。

女中にする為に連れて来たのでは無いと、
知らしめる為、家事は一切しなくていいと昨晩伝えたが、香世にとっては酷な事だったのだろうか?

本当は家事が好きなのかもしれないと密かに思う。
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