冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
腕首のボタンも留め終え、
香世はホッとした表情をする。
その上に軍服を羽織り、同じようにボタンを留める。
後は勲章を胸に留め、護身用の短剣と軽棒、短銃などをベルトに取り付ける。
「危ないものですから、慎重に取り扱って下さいませ。」
香世は頷き、順番に俺に渡してくる。
最後の短剣になって香世の手が止まる。
良く見ると震えている様に見える。
ああ、そうか…。
三年前の事件を思い出させてしまうのだな。と俺は思い、自ら手で取り短剣を腰に納める。
香世はハッとした顔をするが、
何気ない顔を装い、
「ありがとう。」
と伝え、玄関に移動する。
香世はそそくさとタマキと共に着いて来て、玄関でコートを羽織るのを手伝い、
弁当を渡してくれる。
「行ってらっしゃいませ。」
と頭を下げて見送ってくれる。
真子も女中2人と出て来て、手を振ってくる。
真子の頭をポンポンと撫ぜ、ついでを装い香世の頭も撫ぜる。
「では、行って来る。
午後には戻るから、香世も一緒に外出の支度を整えておけ。」
そう伝え、運転手の前田の車に乗り込む。
香世と真子、タマキが玄関先まで出て来て車が見えなくなるまで見送ってくれていた。