冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す

香世の思い

玄関でお見送りしながら考える。

今のは、何だったの?

頭をポンポンと撫ぜられた事に驚きを隠せない。
私の事は真子ちゃんと同じ子供だと思ってるのかしら?
 
多分…そうね……

妻になれとは言われたけれど、 
きっと揶揄っているだけなのね。

そう思う事で気持ちを立て直そうとする。

昨夜の事もあって、どうしても正臣様の近くにいると意識してしまう。
ドキドキと高鳴る胸を抑える事も上手く出来無いでいた。

「香世姉さん、うち、自分の名前書いてみたい。」
ぴょんぴょん跳ねながら真子ちゃんが言ってくる。

とても嬉しそうで私も嬉しくなる。

早速部屋に戻って、タマキさんに鉛筆と紙を貰う。
真子ちゃんの名前を大きめに平仮名で書いてみる。

「うわー!!」
と言って真子ちゃんが喜ぶ。

隣に真似て書くように言うと、一生懸命に書き出す。
鉛筆の持ち方や角度を直してあげると、
それだけで喜んでくれるから、
教え甲斐のある良い生徒だった。

午前中は真子ちゃんに平仮名や数字の書き方を教えて過ごす。

「小学校では他に何を学ぶの?」
無邪気に真子ちゃんが聞いてくる。

「音楽や、運動なんかもやるよ。後はそろばんも教えてくれるよ。」

「うち、音楽がいい。どんな歌を習うの?」

「尋常小学校で初めに習ったのは、『ちょうちょ』とか『桜』とかだったかな。」

「どんな歌?」

「さくら〜さくら〜今宵の空に〜」
歌詞を平仮名で書きながら歌う。
< 48 / 279 >

この作品をシェア

pagetop