冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
車に揺られまず着いた場所は、
先程の宣言通り文具屋だった。

真子が気に入った筆箱や鉛筆、消しゴム、
ノートなど学校で必要な物を揃える。

真子はずっと興奮気味に正臣にお礼を言って、見守る香世さえ嬉しくなってしまう。

「姉さん、うち、始めて自分の物を持ったの。嬉しい。」

香世はそんな真子に家から持って来た
投げ出しの1円から1銭使って赤い色の小さな鈴を買う。

「真子ちゃん、これ、私から入学祝いだよ。
大切な物に付けてね。」

「可愛い!ありがとう。」
気に入ってくれたようで早速筆箱に付けている。

「香世は欲しいものは無いのか?」

正臣が香世を見てくる。

「私は、大丈夫です。」

香世は欲しいものなど何も無い。

花街に行くと決まった日から、
まるで世捨て人のように身の回りの品を整理し、2度と家には帰らぬ覚悟をして来た。

大切にしていた着物でさえも質に入れて生活費に変えた。

今更、戻りたいとも思わない。

ただ風に吹かれ、
たんぽぽの綿毛のように心を持たぬまま、
ふわふわと漂うだけの人生だと、
既に希望のようなものも捨ててしまった。

だから、今更自由に生きろと言われてもピンと来ないのだ。

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