冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「香世のその肩の傷は深かったのか?」
躊躇いながら正臣がそう聞いてくる。

「…お目苦しいものをお見せして申し訳ありません。」
香世は咄嗟に一歩下がって頭を下げる。

「その傷は、名誉の負傷ではないのか。
香世が落ち度に思う事は何も無い。
むしろ、誇らしく思うべきだ。」

香世は信じられない言葉に驚く、

「父は…この傷を負った時、
…傷もののお前は、これでもう嫁の貰い手が無くなったと嘆かれましたが…。」

それには正臣も苦い顔をして、
「俺はただ…
痛かっただろうと案じただけだ。
それほどまでに深い傷を負って…
生きていてくれて良かったとさえ思う。」

なぜこの人は…こんなにもあの時、
欲しかった言葉をくれるのだろう…

香世は言葉に出来ない思いが込み上げて、
泣きたくなる気持ちを必死に堪える。

「香世の価値は金なんかで決して決められ無い。ただ、あそこから救い出す手段がそれしか無かったのだ。
だから、俺に買われたのだと思って欲しく無い。
つまりは……
俺とは対等であり決して蔑む事はないのだ。
……昨晩は強引な事をして悪かった。」

歯切れ悪くそう言って頭を下げて、
正臣は立ち上がり部屋を出て行ってしまう。

香世はその背中を見つめ、しばらく放心状態になる。
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