冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「あ、あの…?」
香世は慌てて手を離して貰おうと引っ張るのだが、余計にぎゅっと握られる。
「風呂場までは段差があって危ない。
慣れるまで俺が連れて行く。」
抑揚の無い淡々とした声で正臣は言うが、
それとは比例して握られた手の温かさや、
時折振り返り香世の足元を気にしてくれる気遣いにドキドキが止まらない。
そんな感じだから、
足元もおぼつかない香世は土間に降りる踊りばたで、ついに躓いてしまう。
「キャッ…」
段差を踏み外しそうになり落ちそうになった果穂を、すかさず正臣が抱き止め、抱き上げる形になってしまう。
「ご、ごめんなさい。」
香世は戸惑い、離れようとするが、
抱きしめられた力強い腕や、
筋肉質な胸板や、風呂上がりの石鹸の香りに胸が高鳴り脳内パニックに落ち入る。
「気を付けろ。」
と、ふわっと土間に下ろされる。
「も、申し訳ございません。」
目を合わせられない程に動揺してしまい、
香世は暗いところで良かったと思うほど、
顔が真っ赤に熱ってしまう。
「部屋に戻る時も気を付けろ。
ここに行灯を置いて置く。」
正臣は何処までも冷静沈着に見える。
「あ、ありがとうございます。
あの、もう大丈夫です…お寒いので、早くお部屋にお戻りください。」
香世は恥ずかしさでパタパタと小走りで風呂場に逃げ込んだ。
私ばっかりが不慣れでドキドキして、子供みたいで恥ずかしい。
お風呂に浸かりながら香世は思う。