冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「くしゅん。」
香世が不意に小さくくしゃみを一つする。

「寒いのか?」
と正臣は心配し、
隣の部屋に行ったかと思うと綺麗に敷かれていた毛布をはがし、香世をふわりと包んでくれた。

「あ、ありがとうございます。」
香世は正臣の優しさに触れ、
戸惑いながらお礼を言う。

「温かい茶でも飲むか?」

そう言うと、正臣は火鉢に向かって行く。

香世は、あっと思い、
「あ、あの、私がやります。」
と、慌てて駆け寄るが、

「茶ぐらい俺でも淹れられる。」
と、笑いながら
鉄瓶から湯を急須に注ぎお茶を淹れてくれる。

香世は驚いてしまう。

香世の家は、男子台所に入るべからずと言われ育てられたから、父は決して自らお茶を淹れる事は無かったし、世間もそうなのだと当たり前のように思っていた…

そんな香世の気持ちも知らず、
お盆に載せてお茶を出してくれる。

「すいません、ありがとうございます。」
恐縮して頭を下げる。

「別に謝る事は何も無い…。
うちは男世帯だからこのくらい普通にやる。」
正臣は当たり前だと言わんばかりに、
自分にもお茶を注ぎ飲み始める。

「熱いから、気を付けて飲め。」

「はい…いただきます。」
香世は毛布に巻かれながら、
湯呑みを両手で持ちふぅふぅとお茶を冷まし、慎重に飲む。

その仕草を可愛いなと思いながら、
正臣は穏やかな気持ちで2人の時間を楽しんだ。
男としては、もちろんもっと近付きたいし、
触れたいと思う。

ただ、初心な香世を見ると
『急ては事を仕損じる』だと思い、
気持ちを抑えて接する事を心がける。

どうしても衝動的に抑えられない時があるのは許して貰いたい…。

香世が「お休みなさい」と言って去った部屋で、
正臣は布団に横になりながら、
毛布から香世の残り香を感じて1人苦しみ悶える事となる…。
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