冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「…家に帰りたいと、思うか?」

そうだ、香世は自由なのだから、
家に帰ってしまったとしても自分には止める権利は無いのだ…。

そう正臣は思うのだが、思うだけで胸が痛くなる。

「いえ、今更帰りたいとは思いません。
…もし、宜しいのでしたらしばらくこちらに置いて頂きたいです。」

心配そうな顔で香世が正臣を見てくる。

正臣がその言葉を聞き、
どれほどホッとしたか香世は知る由もない。

朝食が運ばれて2人で食べる。

正臣は今日からしばらく要人警護の任務で
帰りが遅くなると言う。

「俺の事は気にせず、先に夕飯を食べて寝ていてくれていい。」


「…はい。分かりました。」
香世は始めての1人を少し不安に思いながら頷く。

「夕飯が終われば女中は離れに戻るから、
戸締りをして夜は誰が来ても開けるな。」

「はい…、正臣様は何時頃にお帰りですか?」

「多分、9時過ぎには帰れると思うが、
鍵は持っているから大丈夫だ。」

先に寝てて良いと言われても…本当にそれでいいのか心配になってしまう。

自分の立場が良く分からないから、
ただの居候と言う今の立ち位置をどうするべきか香世には分からない…

私が返事をちゃんとするべきなんだと
言う事は分かるけど……。

この人に私は相応しく無いと思ってしまうから…
一歩前にも進めず、立ち止まったまま動く事も出来ないでいる。

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