冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
父が起きて来て姉ものんびりと起きて来たので、マサと2人朝食の配膳をする。

洋館風に建てられ樋口家はテーブルと椅子で食事をする。

配膳が終わり父の合図で手を合わせてから、朝食を食べ始める。

今日の朝食はアジの開きに、お味噌汁、お新香に麦ご飯。
絵に描いたような質素な食卓が、この立派な洋風の雰囲気にそぐわ無い。

食事時は会話をしてはいけないと厳しく躾けていた父が、今日は珍しく口を開く。

「香世、今日は何時に迎えが来るのだ?」

「3時と聞いておりますが。」
香世がそう伝える。

「そうか…。達者に暮らしなさい。
香世ならどこでもやっていけると思っている。」
父は素っ気なくそう言ってから席を立つ。

「ありがとうございます。
どうか、龍一の事をよろしくお願い致します。」

香世は立ち上がり父に深々頭を下げる。

「分かっている。龍一は唯一の跡継ぎだ。
悪いようにはしない。」

そう言って早々と部屋から去って行く。

「香世ちゃん、姉様を許してね。
貴女に何もしてあげられなくて…
私に力が無いから、香世ちゃんばかりに辛い思いをさせてしまって…。」
姉の清子がシクシクと泣き始める。

それを見て弟の龍一も一緒泣き始めるから、香世は困ってしまう。

「2人共泣かないで、私は大丈夫。
そんなに泣かれると、何処に行っても2人の事ばかり案じてしまうわ。」
香世は泣きたいのを我慢して笑顔で2人を励ます。

「龍ちゃん、もう泣かないで寂しくなったらお空を見上げてみて、姉様も龍ちゃんに会いたくなったらお空を見るわ。
龍ちゃんが見上げたお空と姉様も同じお空を見ているから、寂しくなんか無いわ。」

「お、お母様のいるお空?」
龍一は目にいっぱい涙を溜めながら、
香世にしがみ付きそう言ってくる。

「そうよ。お母様が私達を見守ってくれているから、私達はお空を見れば繋がっていられるの。」
香世の頬を一筋の涙がつたい落ちる。
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