冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「入るぞ。」
香世はタマキにまだまだいろいろ聞きたい事があったのだけど、正臣が来てしまったから話は中断して支度を整える。
「着替えの背広一式はおカバンに用意してありますので、玄関に運んで置きますね。」
タマキが正臣にそう伝え部屋を出て行ってしまう。
思いがけず2人きりになって香世は少し緊張する。
「タマキは今日から本家に行くが、
香世は寂しく無いか?」
「だ、大丈夫です。」
たまに正臣から子供扱いされている気がしなくも無いが…
香世はしっかりしなくてはと身が引き締まる思いがする。
そう思いながら、正臣のシャツのボタンを留める。
「香世、何があったらすぐ連絡を。」
そう言って、軍服の内ポケットから名刺を取り出す。
電話番号が書かれていた。
「はい、分かりました。」
「私が居なかったら部下の真壁か酒井は覚えているな?どちらかは必ず本部にいる。」
正臣は心配そうな顔をする。
「はい。」
香世は名刺を大事に帯の隙間にしまう。
手首のボタンを留め、
軍服を用意する為に離れようとすると
不意に抱きしめられる。
香世の心拍数が急上昇する。
「許せ、嫌だったら跳ね除けろ。」
正臣を跳ね除けるなんて出来ない…、
香世は身動きひとつ出来ず固まる。
抱きしめられると落ち着かない気持ちにもなるけど、守られているみたいで凄く安心もする。
「あ、あの…私がまだまだ子供なので…
正臣様を心配させてしまうんでしょうか…。」
「いや、香世はしっかりしている。
歳の割には落ち着いているし信頼もしている。
単にこれほどまてに心配なのは…
俺の心の弱さからだ。」
正臣はそう言って、先程よりも腕に力を込めてギュッと香世を抱きしめる。
弱い⁉︎正臣様が?
こんなに芯が強い方はいないと思うほどなのに…?
思わず、香世は抱きしめられながら正臣を仰ぎ見る。
至近距離で目があって、心臓が跳ねる。