冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
廊下で自父である大将に会う。
一礼して通り過ぎようとすると珍しく声をかけられる。
「おい、正臣。
お前、女を家に囲っているそうじゃ無いか。」
貫禄のある図体は威厳に満ち、
自分の親でありながら身が引き締まる。
「それはどこ情報でしょうか?
さすがお早いですね。」
敬礼をし、父と向かい会う。
父も軽く敬礼で返し、部下を下がらせ2人で歩きながら話を進める。
「お前は女に興味など無いと思っていたが、
愛人にでもするつもりか?」
貴方のような生き方は決してしない。
と、腹で思いながら平常心を保ち話す。
「いえ、いずれ正妻にしたいと思っております。」
静かに告げる。
「没落令嬢を娶った所でなんの価値があるのだ?
あれほど見合いを持って行ったのに、
どれもことごとく断り続けた不義理な愚息が何を考えている。」
嫌味をぶつけてくる父に多少苛立ちながらも、平常心を保ち返事を返す。
「彼女を侮辱する事は例え貴方でも許しません。」
強い視線を投げかける。
「ほお。慈善事業の一環か?
どんな女であろうと、軍人たる者、
女にうつつを抜かすで無い。」
そう言う自分は何人妾を囲っているだ?と、
呆れながら悪態を吐きたくなるが、
仕事場で揉める訳にはいかないと気持ちを抑え、
「貴方にとやかく言われる筋合いは無い。
失礼します。」
そう言い放ち立ち去る。
朝から気分が悪い。
あの人は昔から何かに付け息子である俺を小馬鹿にするところがある。
母との態度もそうだが…冷え切った夫婦に
最悪の親子関係、実家には用が無い限り近付きたくも無い。
今じゃ妾の家に帰り、妾の子を可愛がり…
あの男こそ好き勝手に生きているではないか。
俺がそんな親に干渉されず好きに生きたいと家を出たのは三年前だ。
実家には母と弟達3人で住んでいる。
今まで、幸せとは程遠い人生を生きてきた。
だからか…
人を愛すると言う事が自分には欠如していると自覚している。
軍の敷地内を訓練所に移動しながらふと、 今までの半生を返り見る。
何か心に残るような感動も思い出も何も無いな…。
だから尚更、香世との出会いは鮮明に色褪せる事無く心に刻まれたのかもしれない。
ふと、空を見上げれば澄んだ青空が広がる。
この虚しいだけの俺の人生に彼女が寄り添い歩む事は無いのだろうか…。
そう思い、ため息を一つ吐く。