冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
真壁と議員控え室近くで落ち合う。

「お疲れ様です。今、本会議が終わった所なので、総理が一息付いて出てくる頃だと思われます。」

「お疲れ。通常勤務の奴らは帰ったか?」

「はい。先に上がらせました。」

極秘任務の為同じ軍人にさえ気付かれてはならない。

気を引き締めて、総理が出てくるのを待つ。

「おお、お疲れ。
正臣君、久しぶりだねー。」
総理はにこやかに片手を上げてこちらにやって来る。

極秘任務なのにこれじゃバレバレじゃ無いかと真壁と2人苦笑いする。

「お久しぶりです。車を出しますのでこちらにどうぞ。」

挨拶もそこそこに裏口から予め用意されていた車に乗り込む。

運転手は真壁で助手席に俺が乗り、 
後部座席に首相が1人乗り込む。

秘書はここまでと言うように頭を下げて見送る。

「いやぁ、正臣君は見ないうちにまた一段と男前になったな。
うちの娘にどうかと思ったのに断られたのは残念だよ。」
首相は上機嫌で俺に話を振ってくる。

「恐れ入ります。私とお嬢様では格が合いません。相応しい方が他にいらっしゃると思いますので辞退させて頂きました。」

「娘は大層がっかりしていたがな。」

「勿体無いお言葉。
軍人の私ではいつ何時命を落とすかもしれませんし、そんな男ではきっと幸せにはなれません。」

自分で言っておきながら、
香世の顔が浮かび心がズキンと痛む。

「まぁ、そうだな。
本当に好きな人とはなかなか添い遂げられ無いもんだ。」
首相は考え深げにそう呟く。

聞くつもりは無いが、今から会う妾が首相の想い人なのかもしれない。

上流階級ほど、政略結婚や親の言いなりで結婚は決まる。
お互い体裁だけ整え、裏では愛人や妾を囲っているのが常なのだ。

夫婦とは何なのか…幸せとは何か…

誰にも気付かれる事無くため息を吐く。

「もうすぐ目的の旅館です。」
真壁が運転しながら俺に伝える。

「分かった。裏口から入る手筈になっている。入るまで抜かるなよ。」

「了解です。」

「もう直ぐ到着です。
出来るだけ目立たぬよう帽子で顔を隠して下さい。」

「ああ、分かった。
妾がもう直ぐ子を産むんだ。産まれたら見に来てくれ。」
嬉しそうに総理は言う。

「それは…おめでとうございます。」
真壁と共に頭を下げて祝福する。

おめでとうなのかは産まれて来る子を思うと
喜べはしないが…。

< 91 / 279 >

この作品をシェア

pagetop