冷酷な軍人は没落令嬢をこよなく愛す
「今から食べるか?」

「寝る前に甘い物は…なんだか悪い事をしているみたいで…気が引けます。」

紙袋の中を覗きながら、可愛く葛藤している香世を見て思わず笑みが溢れる。

「誰が咎める?俺が誘ってるんだ気にせず食べるぞ。」

「はい…。では…用意します。」

少し微笑みを浮かべた香世に俺は心底ホッとして、寝着の浴衣に着替えて半纏を着ると、
手足だけ洗おうと風呂場へ向かおうとする。

「旦那様。桶にお湯を張りましょうか?
お風呂場は冷えておりますし。」

それに気付いた香世が気をを利かせてそう言ってくる。

「香世、名前で呼んで欲しいって言ったよな?」

「あ……ごめんなさい。正臣様。」
口に手を当てる仕草が可愛い。

「自分でやるから、香世はカステラを切ってくれ。」

「いえ、正臣様の事はタマキさんから頼まれてますので、やらせて下さい。」
香世はそう言って、急いで廊下に出て行ってしまう。

どうするのだろうと見ていると、
桶に水を少し汲み布巾の上に置き、
火鉢の上のやかんから湯を桶に足す。

やかんを重たそうに持ち上げるのですかさず手伝う。

簡易な腰掛けをどこからか持って来て俺を見上げ、
「腰掛けてください。」
と、言う。

どうしてこうも香世の1つ1つの所作は綺麗なのだろう。
つい見入ってしまう…

言われるままに腰掛けに座る。

石鹸まで持ってきていて両手で泡立てて
丁寧に足の指から洗い始める。

さすがにタマキにさえここまで丁寧に洗われ
た事が無く、身体が勝手に反応しそうになり
慌てて止める。

「待て。そこまでやらなくて良い…。
後は自分でやるから。」
何事もない様に振る舞うが、内心気持ちが乱れる。
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