伯爵夫人の遺書
「おお、リサ! 元気だったか? 少しふっくらしたんじゃないか」

「太ったってこと? 失礼ね。ブレント様はいつもリサは華奢で可愛いね、って言ってくれるのよ」

「ははは。そうだよ、父さん。リサはもともと痩せすぎていたんだから、これくらいがちょうどいいよ。それにしても、ブレント様とは仲睦まじくやっているんだな。安心した」

 訪問客はお父様とお兄様だった。二人は私を見るなり目を細めて笑いかけ、軽口を叩く。

 一応うちは貴族の家なのだけれど、二人とも随分砕けた態度だ。お父様は男爵だけれど、先ほどまで手紙で読んでいたエリザベス様の父である男爵様とは随分違うな、と思った。

 ふいにお父様は真面目な顔になり、声をひそめて言う。

「リサ、ブレント様とはうまくやっているようだが……本当に何も困ったことはないのか? 小さなことでも問題があるなら教えてくれ」

「大丈夫よ。問題なんてないわ」

「本当か? いくら相手が伯爵といえど、リサを傷つけるようなことがあっては問題だ。もし困ったことがあれば、私たちにすぐに知らせてくれ」

「大丈夫だったら。心配しないで」

 私は笑顔で片手を振った。

 しかし、頭の中には先ほどまで読んでいた遺書の内容が浮かんでいた。問題、というのではない。実際に接しているブレント様はいつもお優しいのだから。ただ、気になるものを見つけてしまったというだけだ。

「お父様もお兄様も心配しないで。私は幸せにやってるから」

 大丈夫だと言ってもなおも何か言いたげなお父様と、その隣で心配そうに見ているお兄様に再度そう伝え、私は実家での話に話題を変えた。

 内心、心配してくれる彼らの気持ちを嬉しく思いながら。

 そう思うのと同時に、少しだけ……ほんの少しだけ、私は「エリザベス様と違って」幸せ者だな、なんて思いが頭に浮かんだ。
< 10 / 22 >

この作品をシェア

pagetop