伯爵夫人の遺書
***

「リサ、今日ご家族が来ていたんだって?」

 夜、外出から戻って来たブレント様とダイニングルームで夕食を取っていると、そう尋ねられた。私はこくりとうなずく。

「はい。ブレント様が留守にしてらっしゃるときに申し訳ありません」

「いや……君を責めているわけではないが、父君と兄君の訪問は少々頻繁過ぎやしないか?」

 ブレント様は珍しく険しい顔で言う。怒らせてしまったかしら、と少し不安になる。

 実際、彼らの訪問は頻繁だった。実家までは決して近い距離ではないのに、お父様もお兄様も週に一度はこの屋敷にやって来る。ブレント様としてはわずらわしいのかもしれない。


「申し訳ありません……。父と兄には、あまり頻繁に来ないように伝えておきますね」

「そうしてくれると助かるよ。君はもうエドモンズ家の人間になったのだから、あまり生家の人間の関わり過ぎるのもよくない」

 ブレント様は私の答えに気を良くしたように、にっこり笑って言った。

 私はふと、心が波立つのを感じる。

 正直に言うと、優しいブレント様のことだから、そんなことはしなくていいと言ってくれると思っていた。例えそう言われても、訪問を少し控えてもらうつもりではあったのだけれど。

 しかし、彼はあっさり肯定した。それほどお父様やお兄様をうっとうしく思っていたのだろうか。

 私のもやもやする気持ちとは裏腹に、向かいに座るブレント様は上機嫌だ。

 ブレント様は私が彼の言葉通りに従うと、いつだって気を良くする。

 ……? いつだって?

 ブレント様はいつだってお優しかったのに、なぜそんな風に思うのだろう。こういう態度を彼が取ったのは今日が初めてで、だからこそ落ち着かない気持ちになっているというのに。

「リサ。やっぱり君はとてもいい子だね。君が来てくれて本当に嬉しいよ」

 ブレント様は私の顔を愛おしげに見つめながらそう言った。


***

 部屋に戻ると、私は早速遺書の続きを読み始めた。お父様たちが帰った後すぐにブレント様が帰って来たため、あれから続きを読む時間がなかったのだ。

 どきどきしながら便箋を手に取る。

 ここにはきっとエリザベス様の結婚生活が……そして、ブレント様の彼女に対する仕打ちが書かれているはずだ。
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