伯爵夫人の遺書
 ブレント様の妻としてエドモンズ伯爵家に来てからの最初の頃は、夢を見ているかのように幸せな日々でした。

 ブレント様はとても紳士的でお優しく、常に屋敷に不慣れな私を気遣ってくれました。

 ただでさえ男爵家で虐げられきちんとした教育を受けていないのに、格上の伯爵家に嫁いだ私が失敗なく伯爵夫人の仕事をこなせるはずがありません。

 屋敷の中でも社交の場でも、何度も失敗を繰り返してしまいました。けれどブレント様は呆れた顔も見せず、私がヘマをする度にさらりと助けてくれます。

 また、ブレント様は贈り物をたくさんくださいました。繊細な刺繍の施されたドレスに、色とりどりの宝石のついたアクセサリー、それに外国から取り寄せたという精巧な髪飾り。

 私がパーティー会場で見かけたご婦人のドレスを素敵だと褒めると、次の日には似たデザインのさらに豪華なドレスを用意してくれました。

 私が何気なくオレンジを使ったお菓子が好きだと言うと、次の日の食卓にはテーブルから溢れかえりそうなほどのオレンジのお菓子が用意されていました。

 贈り物をもらう度に幸せな気持ちになりました。

 贈り物自体も嬉しかったですが、何よりブレント様が私を想ってプレゼントを用意してくれることが私を温かい気持ちにさせたのです。


 そんな幸せな日々に影が差し始めたのは、いつの頃からだったでしょうか。

 ある時期から、ブレント様は私が外に出ると不機嫌になるようになりました。

 初めのうちは、可愛いものでした。

 私が夜会で一人になった時、男性に声をかけられると、ブレント様がすぐさまやって来てむすっとした顔で私の手を引いていくのです。

 私はそういうことがある度に、くすくす笑いを噛み殺してブレント様に謝っていました。

 いつも冷静な彼がやきもちを焼く様子がおかしく、可愛らしかったからです。
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