伯爵夫人の遺書
 しかし、ブレント様が仕事で数日間留守にしていたある日のこと、ついうっかり気が緩んで、庭師の男性と口を聞いてしまったのです。

 彼は屋敷に残っている唯一の男性でした。屋敷の中の使用人は皆女性に変えられていましたが、庭師であれば本館にそう出入りすることもないため、そのままにしておいたのでしょう。

 私といくらも年の変わらない青年でした。

 私が窓辺に寄りかかり庭の花をじっと見つめていると(その頃はブレント様から一切の外出を禁じられ、外の景色が恋しかったのです)、彼は「そんなに気に入ったのでしたら、一輪どうぞ」と花を差し出しました。

 なんだかとても嬉しくなりました。

 屋敷に閉じ込められるようになってからブレント様の叱責を恐れて使用人たちもよそよそしく、こんな風に何気ない親切を受けるのが久しぶりだったからです。

 私は笑顔で庭師にお礼を言いました。

 ふと、正面を見ると人影が見え、血の気が引きました。

 そこにはじっと冷たい目で窓を挟んで話す私たちを見るブレント様が立っていました。
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