伯爵夫人の遺書
 ブレント様は大股でこちらへ歩み寄ると、迷いなく庭師の青年を殴り飛ばしました。

 青年は地面に倒れ込みます。そして突然のことに唖然としている青年の胸倉をつかむと、「エリザベスに何をする気だった!? 誰が近づくことを許可した!」と怒鳴りつけました。

 彼はただ花をくれただけだと説明しようとしましたが、声が震えてうまく言葉になりません。

 怒りのままに青年を怒鳴りつけていたブレント様は、従者に命じて彼を押さえつけさせると、何度も何度も殴りつけました。

 青年が口から血を吐いても、膝から地面に崩れ落ちても、なかなか暴力は止みません。

 「やめてください」と何度叫んでも、ブレント様の耳には届きませんでした。私は涙で滲んだ視界でその残酷な光景をただじっと眺めているしかありません。

 青年が息も絶え絶えになった頃、ブレント様はようやく手を止めます。それから振り返ってぎろりと私を睨みつけました。

 彼は嘲るような声で「何を泣いている? そんなにこの庭師を気に入ったのか?」と尋ねてきます。恐怖で説明しようとする言葉も声にならず、私はただ首を横に振ることしかできません。

 「約束を破ったのだから、覚悟はできているのだろうな」と、彼は言いました。

 屋敷の中に入って来たブレント様に手を引かれ地下室に連れて行かれ、私は自分も罰の対象であることを悟りました。
< 15 / 22 >

この作品をシェア

pagetop