伯爵夫人の遺書
***

 ブレント様とお茶をしてから、私は一人部屋に戻った。部屋でソファに腰掛けながら寛いでいると、先ほどの遺書のことが頭をかすめる。

(気になる……けれど、あれを読んでしまってもいいのかしら。なんだか嫌な予感がする……)

 遺書の内容に抗いがたい好奇心を感じてはいたが、同時に本当に内容を知ってしまってもいいのかという不安も感じていた。

 あれを全て読んだら、ブレント様と今まで通りの関係でいられなくなってしまうのではないだろうか。

 けれど、気を紛らわそうと紅茶を飲んでみても、本を読んでみても、遺書のことが頭から離れない。

(……でも、全部読んだら真相がわかるかもしれないわ。前の奥様の創作だった、なんてオチかもしれないし)

 そうだ。中途半端に知ってもやもやしているよりは、全て読んでしまったほうがすっきりするはずだ。

 そう自分に言い聞かせ、私は再び奥様の部屋に忍びこむことにした。大丈夫。忙しい旦那様はお茶をしてからすぐに外に出かけてしまったので、今は屋敷にいない。


 奥様の部屋の本棚からこっそり本を抜き出し、遺書の入った封筒を持って自室に戻った。

 ブレント様は彼自身の私室以外ならどの部屋も自由に出入りしてもいいと言ってくれているのに、やけに緊張して心臓がばくばく音を立てていた。

 私に出入りを禁止していないということは、ブレント様は遺書の存在に気づいていないのだろうか。

 そんなことを考えながら、便箋に目を通す。二枚目の遺書には、彼女の家族のことが書かれていた。
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